嚥下障害の原因としては、脳梗塞や認知症などの脳神経疾患、加齢によるのどの筋力低下がよく知られており、メディアなどでも取り上げられています。
しかし実は、日常的に処方されている一部の薬の服用によっても嚥下機能が低下し、嚥下障害を引き起こすことがあります。しかもそれは特殊な薬だけではなく、広く使われている薬剤でも起こり得るのです。
脳神経疾患や加齢によるのどの筋力低下が原因の嚥下障害は、治療を行っても症状が残ることがありますが、薬剤による嚥下障害は、不必要な薬を中止したり、薬を変更したり、あらかじめ使用を避けたりすることで改善や予防が可能です。
薬剤性嚥下障害は、複数の薬を服用していることや薬の代謝能力が低下していることから、ご高齢の方に多くみられます。特に70歳以上が全体の約4分の3を占めるとされます。症状は服用開始から1~3週間ほどで現れ、薬を中止すると2週間以内に改善することが多いと報告されています。
今回は、薬剤性嚥下障害の原因としてよく知られている薬の一部をご紹介します。
【1】抗コリン薬
抗コリン薬は「過活動膀胱」や「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」など、さまざまな病気の治療に使われています。 私たちの体には「アセチルコリン受容体」というスイッチがあり、副交感神経を働かせ、記憶や注意力、集中力を高めたり、リラックス効果や消化機能の促進を助けたりする作用があります。 抗コリン薬は、このアセチルコリン受容体をブロックして副交感神経の働きを抑える薬です。病気の治療には役立ちますが、その一方で嚥下機能を低下させることがあります。具体的には、
・脳への影響:脳の活動が低下し、眠気や意欲低下により食欲が落ちる。
・唾液分泌の低下:口の中が乾きやすくなり、食べ物をまとめにくい(食塊形成不全)、味覚の低下、口腔内の衛生悪化につながります。
・消化管の働きの低下:腸の動きや食道の緊張が弱まり、胃酸が逆流しやすくなります。こうした変化で、食べにくさや誤嚥のリスクが高まります。
【2】利尿薬
利尿薬は、体にたまった水分を尿として出す薬です。「高血圧」や「心不全」などの治療に使われています。
しかし、水分を抜きすぎることで、唾液分泌の低下を生じる可能性があります。
【3】抗精神病薬
抗精神病薬は「統合失調症」や「躁うつ病」などの治療に使われます。脳や体の活動を抑える働きがあるため、次のような影響が出ることがあります。 · ・鎮静作用:意識や反射が鈍くなり、食欲低下・嚥下反射や咳反射の低下 → 誤嚥のリスクが上がる ·
・咀嚼・送り込みの遅れ:食べ物を噛んだり飲み込む動作が遅くなる
さらに、抗精神病薬はほかの薬と相互作用しやすく、多剤併用によって副作用が強まることがあります。
【4】抗不安薬・睡眠薬
抗不安薬・睡眠薬はGABA受容体というスイッチを働かせて、体を休ませる方向に作用させます。これにより「落ち着く・不安が減る・けいれんを抑える・筋肉がゆるむ」といった効果が出ます。ただし、作用が強く出すぎると、嚥下(飲み込み)の力が弱くなることがあります。 ·
・脳への影響:脳の働きが抑えられるため、眠気ややる気の低下が起こり、その結果として食欲も落ちやすくなります。 ·
・筋肉への影響:筋肉をゆるめる作用により、噛む筋肉や飲み込みに関わる筋肉が弱まり、嚥下機能が低下します。
その他にも、嚥下機能に影響を及ぼす薬剤は存在します。 薬の作用の程度は個人差があり、病気の治療として正しく使用していても副作用として嚥下障害を起こすことがあります。
薬の影響が疑われるときは、自己判断で中止せず、かかりつけの医師や薬剤師に相談してください。 薬の調整によって改善できることが多いため、早めの対応が大切です。
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